古代日本の葬送「殯(もがり)」とは?死を悼む儀礼の真相と現代への系譜
「殯」という漢字は、中国の古代礼制に由来し、遺体を棺に納めて本葬まで仮安置することを指します。一方、日本固有の大和言葉である「もがり」が何を語源としているかについては、国文学や民俗学の領域で長年議論が重ねられてきました。
最も有力視されている説の一つが、死者を隔離・保護する場所を意味する「喪処(もがり)」からの転訛です。死によって発生する強い「ケガレ(気枯れ・穢れ)」を共同体から遠ざけ、聖域として区切られた空間に仮設の殿舎(殯宮)を建てたことから、その場所自体を指す言葉が儀礼全体の呼称になったとされています。
また、古代信仰の観点からは、衰微した生命力を再び奮い立たせる「盛り(もがり)」、あるいは死者の荒ぶる霊魂を鎮めるためにたけだけしく立ち向かう「猛がり(もがり)」に由来するという説も根強く支持されています。いずれの説においても共通しているのは、「死を不可逆な終焉としてあっさり受け入れるのではなく、生と死の境界線で激しく抗い、確かめようとした古代人の精神性」です。
文学的・風土的な視点で興味深いのが、冬の季語として知られる「虎落笛(もがりぶえ)」との関連です。「虎落(もがり)」とは、竹を斜めに組んで作った強固な柵や垣根を意味します。冬の凍てつく寒風がこの竹垣に吹き付け、ヒュウヒュウとまるで哭き叫ぶように鳴る音を「虎落笛」と呼びます。外部からの魔を遮断するために殯宮の周囲に巡らせた竹垣と、吹き抜ける風の慟哭――古代の人々が抱いた死への畏怖と自然現象への感性が、言葉の響きの中で見事に共鳴しています。