緒形拳の遺作『風のガーデン』現場で何が?命を削った壮絶闘病の真相
『風のガーデン』の撮影現場において、緒形拳さんが見せた佇まいは、制作陣にとっても忘れがたい記憶として刻まれています。脚本を手掛けた劇作家の倉本聰氏は、緒形さんとはNHK大河ドラマ『勝海舟』以来、数十年にわたり深い信頼関係で結ばれた盟友でした。
風のガーデン 撮影秘話として後に倉本氏が語った回想によれば、北海道・富良野の広大なガーデンを歩く緒形さんの足取りは、時折ひどく重そうに見える瞬間があったといいます。しかし、ひとたび演出が入りカメラが回り始めると、背筋がすっと伸び、在宅医療の現場で命を預かる医師としての威厳と温かみが全身から溢れ出しました。撮影の合間、倉本氏が「拳さん、身体は大丈夫かい」と声をかけても、緒形さんは「大丈夫、全然平気だよ」と茶目っ気のある笑顔で返答し、決して具体的な痛みを口にすることはなかったと証言されています。
息子役を演じた中井貴一さんとの対峙シーンでは、鬼気迫る緊張感が漂っていました。死期を悟った息子と、それを受け止めようとする父親。台本に描かれた親子の対話は、緒形さん自身が現実世界で抱えていた命のカウントダウンと無意識に共鳴していたかのようでした。中井さんは後年、当時の特番インタビュー等で「緒形さんの眼差しには、役を超えた本物の命の重みが宿っていた。現場では一切病気のことなど感じさせず、ただただ圧倒的な背中を見せていただいた」と述懐しています。
そして、息を引き取る直前、次男である俳優の緒形直人さんら家族に遺した言葉もまた、深い感動を呼びました。逝去後の記者会見で緒形直人さんが涙ながらに明かしたところによると、病状が急変し意識が混濁しかけるなかでも、父・拳さんは家族に向けて感謝を告げたといいます。
直人さんが「お父さん、本当によく頑張ったね」と語りかけると、緒形拳さんは絞り出すような声で「ありがとう、もう逝くよ」「お父さん、頑張ったよな」と小さく頷き、静かに息を引き取ったと伝えられています。家族に対する深い感謝と、最後まで表現者としての矜持を保ち続けた自負が、その最後の言葉に凝縮されていました。