Mcは何の略?テレビ司会者とラッパーで異なる正式名称の真相
ヒップホップシーンやラップの世界において使われる「MC」も、歴史のスタート地点は同じく「Master of Ceremonies」でした。1970年代初頭、米ニューヨーク・サウスブロンクスの公園や廃ビルで開催されていたブロックパーティ(地域密着型の路上DJイベント)において、DJがレコードを掛け替える間にマイクを握り、来場者の名前を呼んだり場を盛り上げたりした「アナウンサー役」が始まりです。
ヒップホップの始祖とされるDJクール・ハーク(DJ Kool Herc)の相棒であったコーク・ラ・ロック(Coke La Rock)が、世界最初のヒップホップMCとされています。当初は純粋なパーティーの進行役(Master of Ceremonies)に過ぎなかった彼らのマイクパフォーマンスは、やがてリズムに合わせて韻を踏む洗練された「ラップ」へと進化を遂げました。
表現の高度化に伴い、ストリートのアーティストたちは「単なる司会進行役の枠組みに留まらない」という強烈な自負から、既存の頭文字に新たな意味を授けるバクロニム(逆頭字語)を生み出します。その代表格が以下の呼称です。
- Microphone Controller(マイクロフォン・コントローラー):マイク1本で音響と空間を自在に掌握する者
- Move the Crowd(ムーブ・ザ・クラウド):言葉とライミングでオーディエンスを熱狂させ、群衆を動かす者
- Mic Checker(マイク・チェッカー):言葉の切れ味と音の響きを確かめ、フロアを煽る者
ヒップホップの伝説的ラッパーであるKRS-Oneは、自著や数々のインタビューの中で「誰でも韻を踏めばラッパーになれるが、マイクで群衆の心を震わせ空間を支配できる者だけが真のMCと呼ばれる」と語っています。ストリートカルチャーの現場において、MCという言葉は技術と精神性を兼ね備えた表現者に対する最上級の尊称へと昇華したのです。