なぜ男同士で唇に?ブレジネフのキス写真とベルリン壁画に隠された真相
世界中で拡散されたあの写真は、いつ、どのような状況で撮影されたものだったのか。キスの相手となった人物は、東ドイツの独裁体制を敷いていた社会主義統一党書記長、エーリッヒ・ホーネッカーです。
決定的な瞬間が訪れたのは1979年10月7日。場所は冷戦の最前線であった東ベルリンです。当時、東ドイツは建国30周年の節目を迎えており、市内では大規模な祝賀行事と軍事パレードが繰り広げられていました。ブレジネフは盟主ソ連の最高指導者として直々に東ドイツを公式訪問し、式典に出席。その壇上で、ホーネッカーの歓待に応える形で熱烈な抱擁を交わし、互いの唇を強く合わせたのです。
この瞬間をカメラのファインダーに収めたのが、フランス出身の報道写真家レギス・ボッシュ(Régis Bossu)でした。パリ・マッチ誌をはじめとする欧米メディアに配信された写真は瞬く間に世界中で話題となり、「冷戦のグロテスクな親密さ」を象徴する記録写真として後世に残ることになりました。
しかし、写真の放つ過剰な親密さとは裏腹に、1979年当時のソ連と東ドイツの実情は深刻な閉塞感に満ちていました。ソ連経済は「停滞の時代」と呼ばれる泥沼に陥り、東ドイツもまた巨額の対外債務と物資不足に喘いでいました。このキスのわずか2カ月後、ソ連はアフガニスタン侵攻を開始し、東西デタント(緊張緩和)は完全に崩壊します。つまり、写真に切り取られた熱烈な口づけは、崩壊へと向かう共産圏が必死に振り絞った「見せかけの団結」に過ぎなかったのです。