なぜ現れる?Kerley B線から心不全を見抜く胸部X線読影の極意を徹底解説
胸部単純X線撮影において、肺野の末梢・特に側胸壁に接する下肺野に認められる長さ約1〜2cm、幅1mm前後の水平な線状影がKerley B lines(カーリーB線)です。健康な肺組織では小葉間隔壁は極めて薄くX線写真に写り込むことはありませんが、特定の病態によって隔壁に過剰な水分や細胞が貯留すると、X線の透過性が低下して明瞭な「異常陰影」として可視化されます。これが小葉間胸膜肥厚の診断における原点です。
この陰影が出現する背後には、緻密な解剖生理学的機序が存在します。呼吸器の基本単位である「二次肺小葉」を取り囲む小葉間隔壁には、肺胞領域から静脈血や余剰な組織液を回収する毛細リンパ管と肺小静脈が網の目のように走行しています。何らかの原因で肺循環の静脈圧が上昇すると、血管内から間質組織へと血清成分が滲み出し、リンパ管の排液許容量を突破します。その結果、水浸しになった隔壁が物理的に膨張し、胸膜に対して垂直(X線フィルム上ではほぼ水平)に伸びる細いストライプ状の陰影として描出されるのです。
臨床において最も頻度の高いトリガーはKerley B線と心不全の関係性です。左室収縮能や拡張能の低下によって左心房圧が跳ね上がると、そのバックプレッシャーが肺静脈から肺毛細血管へとダイレクトに波及します。肺うっ血における胸部X線の特徴として、心拡大や上肺野血管影の増高(cephalization)に続いて現れるのがまさにこの所見であり、肺胞内に水が溢れ出す一歩手前の「間質性肺水腫」が形成されている事実を雄弁に物語っています。